【紫風】2019年 10月号

『徒然草』で知られる兼好法師が、実は土地売買などで「財テク」をしていた、というのは意外かもしれない。角川文庫版「徒然草」によると、1313年9月1日付の土地売買券に兼好は六
条三位有忠(ろくじょうさんみ-ありただ)から、山科小野庄(京都市山科)の田畑約3千坪を銭90貫(約540万円)で買い取っていることが記されていた。

その大金もだが、厳しい契約条件を付けていることにも驚く。免税対象にすること、契約破棄の徳政令を適用しないこと、契約違反したら元金の1.5倍を支払うことなどなど…

「世捨て人」のイメージが強いが、俗世から離れ自由に暮らすには経済人である必要もあった。「世捨て人」までいかなくとも、財テクが必要な時代かもしれない。金融庁による「老後資金2千万円不足」という報告書が話題になった。むしろ多くのファイナンシャルプランナーは「5千万円の貯蓄が必要」と見解を出している。投機の必要はなくとも、投資はあらゆる人に必要になるだろう。

追い打ちをかけるように、消費税も10%に上がった。一方、「軽減税率」の制度が事業者・消費者ともに混乱させている。外食か持ち帰りかの微妙な判断などはトラブルの原因だ。新聞も対象になるなど逆進性対策としても不十分で、いまいち意図がつかめない。

『徒然草』第97段にこんな一節がある。<その物に付きて、その物を費やし損なもの、数を知らずあり>軽減税率の導入でいい顔をしようとしたのかもしれないが、実際は余計な負担が増えている。泣きっ面に蜂とは、まさにこのことである。増税反対の意見に付いてばかり、というのも考えものだ。