心整う京の宿「胡乱座」

 京都四条はいわずとしれた繁華街である。しかし、堀川通りを一本中に入れば、昔ながらの町屋も何軒か見られる。一見普通の住宅に見えても「GUEST HOUSE」という看板のかかっているお宅も多い。今日はその中の一軒、胡乱座(うろんざ)さんにお話を伺った。

 胡乱座は古風なたたずまいの町屋である。ここは、120年前からあるもの、をコンセプトにして作られている宿だ。

 胡乱座のご主人の大橋さんは世界一周の旅行をされて、京都の地にゲストハウスを開業された方とお聞きして驚いた。

 大橋さんは「120年前から、住居や生活のスタイルは大きく変わりました、日本人の多くは会社で一日中働かなくてはならず、翌日に向けて疲れをとるために、夜は家の中で快適に過ごしたいと考える、だからクーラーをつけたり、防音性の高い家に住んだりするのです」と語る。

「故乱座」内観

 そんな現代風の建物と胡乱座は異なる。吹き抜けの土間があって、中庭に面した座敷にはよしずがかかっている。そしてなんと、館内には冷暖房がない。私も4月上旬にこちらに宿泊させていただいたのだが(その時は気温が3度くらいしかなく、外はとても寒かった。)ヒーターを使わなくても十分暖かく、快適に過ごせた。伝統的な京町屋の機能性を感じた。

 大橋さんは「どうしてウチにはクーラーがないのかといわれることもあるのですが、どうして、日本人はクーラーがないと生活できないようになってしまったのか、考えることができるのもこの宿の特長なのです」と語る。

 この120年の間に、時代や生活は大きく変わったが、胡乱座の町屋はずっと変わらずここにあった。私は胡乱座に来るたびに、何かほっこりとした温かさを感じるのだが、それはこの京町屋の機能性からなのか、長く愛され、使われ続けたものが醸し出す優しさなのだろうか。

 胡乱座には、一風変わったこだわりがもう一つある。それは、旅行者には今や定番となっている予約手段の、旅行サイト等に登録していないことだ。

 現代の旅行者は、旅行サイトに登録されている宿から選びがちだという。しかし、それは顔も知らない他人が押した星の数で、自分の行動を決めてしまうこと、とも言えると伺った。

 私たちは宿を予約するにしても、ネットショッピングで商品を買うにしても、他人の押した星の数や、レビューを参考にすることが多い。悪いことではないのだが、それは、顔も知らない他人の感覚を全面的に信頼してしまっていることともいえる。インターネットに出回っているモノやコトの大半に「他人の意見」がついている現代で、自分の感覚や、考えをもっと大切にしてもいいのではないかと思った。

 また、胡乱座はコミュニケーションを目的としたゲストハウスではないので、ワイワイと大勢で楽しむ雰囲気ではなさそうだ。だが、一晩泊まると京町屋の温かみや、隅々まで心を配って手入れされた空間を存分に感じることができる。そして、ざわざわしていた心がスッと落ち着くのを感じられる。一泊4000円で宿泊が可能だ。心整う京の宿、胡乱座に、あなたも一度行ってみてはいかがだろうか。

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【ゲストハウス 胡乱座】下京区醒ヶ井通り綾小路下る要法寺町427 市バス「四条堀川」より徒歩五分 チェックイン:16:00~21:00 チェックアウト:~11:00