【書評】『サイボーグ時代』吉藤オリィ

激しい時代の変化とその中を生きる私達

時代は今、この瞬間も移り変わっている。その速度は一昔前の比ではなく、10年前にはは考えられなかったようなことが現実味を帯び、また現実となり私たちの生活を快適なものにしている。その一方で、AIに仕事を乗っ取られることが危惧されているなど、テクノロジーの発展は私たちの不安を煽る存在でもある。

そんな世の中で、例えば良い学校を出て大企業に入社し、幸せな家庭を築くといった、いわゆる「幸せな生活」を送ることは困難になりつつあり、今まで以上に多様化した生活が普遍的なものになるだろう。「サイボーグ時代」は、そんな「教科書のない」現代の世の中で、いかに人々が自分らしく生きるかに焦点を当てた一冊である。

この本の著者である吉藤オリィ氏は、子供の頃に長い引きこもり生活を経験し、「孤独」のつらさを知った。そして、孤独の解消、つまり全ての人が自分らしく生きられる社会を目標とし、テクノロジーを用いて研究に励んできた。体が動かなくても、遠隔から視線を使て操作でき、自身の分身となってくれる「OriHime」というロボットは彼の代表的な発明であり、国内のみならず世界中から注目を集めている。

著書内で、彼は「できないことを非常に前向きに捉える」といった、一貫した態度を見せている。というのも、今まで「自分の力不足や障害によりできない」と嘆かれていたことは、現在のテクノロジーで解決可能になりつつあるためである。それゆえ、自分の興味や自分らしさといった意思が、今まで以上に有用になりつつあるのだ。一昔前は知恵者だけに許されていた権利が、思っているよりずっと私たちの身近にある。それに気づかず、情報機器を駆使しながら古い価値観を振りかざす私たちは、非常に惜しいことをしているのではないか。

著書内では他にも多方面にわたって現代を快適に生きる術が書かれている。著者の見据える未来は、いったい何年先だろうか。古い価値観に縛られることを自覚するとともに、人生の少し先が見えてくる、そんな一冊である。