一歩、一歩、その先へ

山に登って考えたこと

9月の連休中、地元の名峰那須岳に登ってきた。ロープウェイで山頂付近まで行けることから、紅葉の時期には関東全域からの観光客で賑わう。山に登るのは久々だったので、一歩一歩足元に気をつけながら歩いた。その足取りには、谷口ジローの漫画『ふらり。』で描かれた伊能忠敬の姿も反映されている。

今回登頂した那須岳

伊能忠敬とは、『大日本沿海輿地全図』と呼ばれる日本全土の実測地図を作製した人物である。物語は道すがら出会う江戸の人々や季節の移ろいに注がれる彼の視線に沿うように流れる。そこには、世界への飽くなき興味があるばかりだ。その一歩が物語の原動力となり、いつしか壮大な日本地図へと発展していく。

その精神にならって、私は頂上を見据えながらというよりも、踏んでいる土や岩の感触、周囲に咲き誇る草花に目を向けながら歩いた。気がつくと、頂上に着いていた。生物の気配はない。遠くかすかに人影が見える。折しも眩い朝日がさし、登山者の姿を濃く際立たせた。その奥には、初秋の関東平野がうっすらと見えていた。

登山というと、険しい山々に挑戦する屈強な登山者の姿が連想されるかもしれない。しかし、考えてみれば、傾斜のある道であることに目をつむれば、登山者も普段通りに道を歩いているだけだ。その結果として、山頂にたどり着くことがある。それが登山だ。だから、歩かなくては何も始まらない。証明の問題に向き合う時のように、私たちは確かな一歩を踏み越えて前へ進む。

私たちの日常も登山と変わらない。違うのは、あらかじめ頂上の見えない山に向かうということ。けれど、それが日常である。

私たちはしばしば理想の姿を夢想する。私が学んだのは、転ばないように歩いていれば、山頂から雄大な地平を見渡せたり、300年語り継がれる地図を作り上げることが出来るということだ。

夏季休暇も終わり、私たちはまた歩き出す。ニーチェの言葉にこうある。『…その道はどこに行き着くのか、と問うてはならない。ひたすら進め』たどり着いた場所から見える景色は、きっとうつくしい。

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